(1)起立性調節障害

田中英高

  1. 起立性調節障害とはどんな病気/症状でしょうか?
    人は起立すると、重力によって血液が下半身に貯留し、その結果、血圧が低下します。健康な人では、これを防ぐために自律神経系の一つである交感神経が興奮し、下半身の血管を収縮させ血圧を維持します。また、副交感神経活動が低下し心臓の拍動が増加し心拍出量を上げ、血圧を維持するように働きます。ところが、起立性調節障害ではこの代償機構が破綻して血圧は低下し、脳血流や全身への血行が維持されなくなります。そのため、立ちくらみやふらつきが起こってきます。血液による酸素や栄養の供給が悪いので、すぐに疲れたり、また疲労からの回復が遅れます。さらに脳血流が悪いために、思考力は低下し、集中力もなくなってきます。心臓は代償性頻脈を起こすため、起立状態や少しの運動で息切れ、動悸を起こすようになり、とても身体が辛く感じます。身体を横にすると全身への血流が回復するため、このような症状が軽減し身体が楽になります。起立性調節障害の子どもは、ごろごろと横になることが多いのはこのためです。
    ところで自律神経の活動性には24時間周期の日内リズム(概日リズム)があります。たとえば、人は早朝になると交感神経活動が増えて身体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり身体をクーリングさせ、休養させます。ところが、起立性調節障害では、午前中に交感神経が活性化せず、5〜6時間以上も後ろにずれ込んできます。その結果、朝に身体が休止しているような状態になります。その一方で、深夜になっても交感神経の活動性が下がってこないので、夜は身体が元気になり、寝つきが悪くなります。一見、生活リズムが乱れているように見えるのですが、その根本原因は自律神経系の日内リズムが後方にずれこんでいることにあります。起立性調節障害の子ども達に対応する際に、このような特徴は十分理解してあげてください。 
  2. 起立性調節障害は多い病気ですか?
    頻度の高い疾患です。好発年齢は10 ~16歳、有病率は、小学生の約5%、中学生の約10%とされ、男:女=1:1.5 ~2です。厚生科学研究の全国調査によると、一般小児科外来を受診した10〜15歳3316名のうち、281名(8.5%)が心身症、神経症等と診断され、その中で起立性調節障害は199名と約7割を占め最も多くみられました。 
  3. 起立性調節障害はどんな検査が必要ですか?
    起立性調節障害の検査には、以前からシェロング起立試験が行われていました。この試験では、臥位10分後と、その後に10分間起立させて血圧と脈拍を測定します。従来の起立性調節障害診断基準では、収縮期血圧が起立時に21mmHg以上低下した場合、異常と判定します。しかしシェロング試験での診断率が低かったのです。最近、さまざまなハイテク装置が開発され、起立性調節障害を正確に診断する方法が開発されました。非観血的連続血圧測定装置(フィノメータやポータプレス)というハイテク血圧計は、血圧と脈拍が一心拍毎に連続的に測定します。この血圧測定装置を使って、起立直後性低血圧(起立直後に強い血圧低下がある)、体位性頻脈症候群(起立後頻脈が続く)などのタイプが見つかってきました。最近は、このような装置がなくても小児科の外来でもできる新しい起立血圧試験が開発されています。 
  4. 起立性調節障害の治療について簡単に教えてください。
    起立性調節障害は身体疾患ですから、まず身体面での治療を進めます。すぐには改善しませんので、焦らず取り組んで下さい。治療には、非薬物療法と薬物療法があります。まず非薬物療法から開始します。規則正しい生活リズムの回復、塩分が1日10〜12gで、水分は少なくても1日1.5リットル摂取するようにします。薬物療法では、昇圧剤のミドドリンなどを用います。また加圧式腹部バンドや圧迫ソックスなどの下半身圧迫装具は、無駄な血液貯留を防ぎ速やかな症状軽減に役立ちます。
    一方、起立性調節障害はさまざまな精神的ストレスで悪化することがあり、心のケアが有効なこともあります。もし、それが解決できそうならば進めますが、すぐには無理であるならば、解決するまでゆっくり待つ、という方法をとります。友達関係のこじれであれば、心の引っかかりもすぐには解決し難いので、本人の心が回復するまで保護者も教師もゆっくり見守る姿勢が大切です。ただし、本人が心を打ち明ければ正面から取り組んでいただきたいと思います。 
  5. 起立性調節障害は治るのでしょうか?病気の経過について教えて下さい。
    どのような状態を「治る」と考えるのか、それによって答えも変わります。ここでは、身体症状があっても薬を服用せずに日常生活に支障が少なくなった状態、とします。
    重症度によって予後はかわります。日常生活にほとんど支障がでていない軽症では、秋になって涼しくなると軽快します。しかし、温かくなる春先に再発することが多いようです。学校を時々遅刻したり、たまに欠席する程に日常生活に支障がでてきた中等症では、回復に時間がかかるようになります。日常生活に支障のある中等症では、1年後の回復率は約50%、2~3年後は70~80%です。重症例では、朝が起きられないために、ほとんど欠席しますので成績も悪くなります。この場合、普通高校の進学は難しくなります。もし、入学できたとしても、朝の授業にたびたび欠席して、留年になることも珍しくありません。しかし、からだと心の両面から治療的対応がうまくいき、さらに体力に見合った高校(午後から授業の単位制高校など)に進学すれば、高校2年生ごろにはかなり回復し学業や運動にも支障がなくなります。重症では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方が良いでしょう。しかし、約9割の子どもが高校卒業し、大学進学率も平均並です。 
  6. 保護者と学校関係者へのお願い
    1. 「起立性調節障害は身体の病気であり、起立や座位で脳血流が下がり、思考力・判断力が低下する」ということを、保護者や学校の先生などの周囲の人がまず理解してあがることが大切です。午前中に症状が悪くなり学校を遅刻しがちになるが、午後〜夜に体調が回復して、テレビやゲームで楽しそうに遊んでいる姿をみると、「どこから見ても病気とは思えない」というのが、保護者の本音です。しかし、最先端の検査を行うと明らかな異常が見つかるのです。決して仮病や怠けではないと考えましょう。保護者、学校の先生の理解が得られることで、子どもは安心し症状軽減につながります。
      症状が悪くなるのは、1日の中では午前中、そして1年の変化でみると、血管が拡張しやすい春先から夏の時期です。寒くなってくる秋〜冬は、手足が冷えやすい、という問題はありますが、全般的に体調が回復することも知っておいて下さい。
    2. 「この病気は心の持ち方次第でよくなる」「だれでも朝は辛いけど、みんながんばっているんだ」と言って、朝から家に迎えに行く教師がおられます。かえって子どもが拒否的になってしまい、引きこもりを起こすことがあります。起立性調節障害症状が改善する時間帯に登校する、長時間の起立や座位は脳血流を低下させるので、保健室や別室で楽な体位で学習できるような配慮が必要です。
    3. 担当医に診断書を提出してもらいましょう。起立性調節障害の子どもによって詳細は異なりますが、「学校生活すべてにおいて静止状態での起立を3〜4分以上続けないこと」「暑気を避ける。夏に体育の授業を見学させる時には、重症度が中等症以上では、涼しい室内に座って待機させる」などの記載をしてもらいましょう。日常生活にほとんど影響が出ていない「軽症起立性調節障害」では、運動制限の必要はありません。症状のために学校を時々欠席してしまうような「中等症起立性調節障害」では、一見元気そうに見えても、競争を要する運動は避けてください。また、起立失調症状などの体調不良が出現したら、すみやかに臥位にして脳血流を回復させるようにしてください。学校をほとんど欠席して長期不登校となっている「重症起立性調節障害」では、登校した場合でも体育は中止します。
    4. 体調不良でも昼間は身体を横にしないようにします。また、散歩程度の運動は積極的に進めます。筋肉のポンプ作用で下半身への血液貯留を防ぐことができます。歩いても良いが、じっと立つのはダメ、ということです

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  1. (1)起立性調節障害:田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:島田章
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)疼痛障害:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)神経性食欲不振症(若年期発症):井口敏之
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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