自閉症スペクトラム症

1. 概要

自閉症スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は、「社会的コミュニケーションの障害」、「興味や行動への強いこだわり」とそれに基づく行動の障害を主な特徴とする神経発達症です。
ASDは、あらゆる人種、民族、社会的集団で確認されています。ASDと診断を受ける割合は、約100人に1人いると報告されています。また、男女の比率はおおよそ41で、男児に多く見られます。
ASDの原因はまだ特定されていませんが、ASDの遺伝要因の影響度は90%と非常に高く、遺伝的な要因が関与して起こると考えられています。特に、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。
ASDに併発する症状は数多くあり、早期に発見・支援していくことが重要です。

 

2. 症状

ASDの症状には、大きく分けると、(1)社会的コミュニケーションの障害、(2)興味や行動への強いこだわり、の2つがあります。

  • 人とのかかわりや、コミュニケーションに関する困難さがASDの特徴として挙げられます。

・言葉の遅れ
・オウム返し
・会話が成り立たない
・視線を合わせることが少ない
・名前を呼んでも反応しない
1人遊びが多い、ごっこ遊びをしない
・身振り手振りが少ない
・例え話や冗談であって理解できず、文字通りに受け取る

  • 反復的な動作を繰り返す、興味にかたよりがある、こだわりがある、感覚過敏あるいは鈍麻などもASDの特徴として挙げられます。

・同じ遊びを繰り返す
・決まった順序(道順)やものの位置などにこだわる
・些細な変更に抵抗する
・限定的で固執した興味がある(電車、魚、地図、図鑑など)
・音や光などの感覚刺激に対して過度に過敏あるいは鈍感
・食べ物の好き嫌いが強い
・抱っこや触られるのを嫌がる

 

3. 診断法

一般的に、ASDの診断は、米国精神医学会「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM-5-TR)にもとづき診断されます。

ASDの診断基準DSM-5-TR
1社会的コミュニケーションの障害(3つ)
2限定された反復する様式の行動、興味、活動(2つ以上)
3症状は発達早期に存在している(後になって明らかになる場合もある)
4症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている
5他の障害ではうまく説明できない

また、診断する際には、生育歴、行動観察、心理検査などを用いて総合的に診断を行います。ASDの診断補助ツールとして、PARS(Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision)、CARS(Childhood Autism Rating Scale)、ADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised)、ADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition)などがあります。

 

4.  治療・対策

ASDの中核症状自体を改善するための確立された治療法はまだありません。ASDの現在の治療法は、日常生活の機能と生活の質を妨げる症状を軽減することを目的としています。発達、学習、社会性を促進し、不適応行動を減らし、家族を教育し支援することが、その目的を達成するのに役立ちます。そのために、支援では、子どもの保護者、医師、学校の教師、療育の専門家と連携して支援していくことが重要です。支援方法としては、行動的介入(応用行動分析)、認知行動療法、教育的介入(TEACCH)、言語療法や作業療法が役立ちます。
また、ASDの中核症状自体を改善するための薬物はありません。ただし、癇癪、パニック、攻撃的行動や睡眠障害、注意欠如多動症、てんかんなどが併存している場合、それに対して薬物療法が検討されることがあります。

 

5. 合併症・併存症

様々な合併症や併存症が知られていますが、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっていると報告されています。併存や合併しやすい疾患は、知的発達症、注意欠如多動症(ADHD)、不安症、睡眠障害、抑うつ障害、強迫症、てんかんなどが挙げられます。

(福井大学子どものこころの発達研究センター 濱谷 沙世、水野 賀史)

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