慢性疼痛

1. 定義および概要

 慢性疼痛は、「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」で、こうした痛みが発症から3 か月以上持続するものと定義されます。これを換言すると慢性疼痛は、医学的に説明できない痛みが長期間持続する状態とも言えます。慢性疼痛は体の問題だけではなく、バイオサイコソーシャルの各因子の複雑な相互作用の結果によるものと理解されています。また痛みが慢性化(=長く持続)すること自体での本人の苦痛が大きくなる、登校ができないことで勉強が遅れる、睡眠不足になるなど様々な問題を呈するようになり、生活への支障度が著しく大きい疾患と言えます。

2. なぜ痛みが長く持続するのか?

 痛みが長く持続するかの説明として1)中枢感作・末梢感作2)痛覚変調性疼痛症という2つの病態生理が考えられています。中枢感作・末梢感作は、痛みが長引く中で、中枢神経・末梢神経での痛みの感じ方が次第に敏感になり、軽微の神経的な刺激によっても痛みを感じるようになる状態を意味します。また痛覚変調性疼痛症は、痛みが長引く中で、痛みの神経回路が変わってしまい、痛みをより感じやすくなるという状態を意味します。こうした状態はある意味、脳がいつも痛みを憶えているような状態とも言えるものです。またなぜ慢性疼痛に心理社会的な因子(=ストレス因子)によっては痛みが持続するかに関しては、脳内での痛みの抑制が効きにくくなることが原因の一つと考えられています。痛みは脳内で下行抑制系という痛みを抑制システムがあるのですが、強いストレスは、この抑制が弱めてしまうことが知られています。そのために痛みは持続しやすくなると考えられているのです。

3. 治療

 慢性疼痛では、薬物療法の効果は通常とても乏しく、また心理療法、特に認知行動療法(CBT)の有効性などは認められていますが、実施できる施設などは限られます。また慢性疼痛の治療としては、基本的に小児科医、心理士、理学療法士、リハビリテーション医、麻酔科なども含む多職種のチームによる総合的なかかわりによる治療が推奨されています。

 ここで慢性疼痛の具体的な疾患として、小児での慢性疼痛の代表的疾患である若年性線維筋痛症を取り上げ、本疾患の概説を以下に述べていきます。

概要

 若年性線維筋痛症は、小児の慢性疼痛疾患の代表的なものです。性別では男子より女子に多く、診断される平均年齢は14.5歳~15.5歳(7歳~18歳)との報告があります。症状としては、身体の広範囲な部位に慢性的な痛みがあり、その痛みの部位は固定せず、移動することが多いです。また痛みは基本的には、筋肉痛、関節痛がメインですが、その他にも頭痛、腹痛などの合併も少なくありません。随伴症状として低体温、倦怠感、睡眠障害などを伴うことが多いですが、いずれの徴候も慢性疼痛と同様に身体診察や一般的画像検査。臨床検査で症状を説明できる異常を見出すことはできません。こうした痛みが持続する病態に関しては、慢性疼痛と同様に中枢感作・末梢感作および痛覚変調性疼痛症などの病態が想定されています。また成人の線維筋痛症と比べて若年性線維症では、心理社会的な因子の関与がより大きいともされていることから、若年性線維筋痛症は、小児心身症としての側面を持っていると言えます。こうした心理、精神科的な特徴としては、性格傾向として完全主義、まじめ、几帳面、過剰適応などの気質、また自閉症スペクトラム症、ADHDなどの発達症との併存、また保護者と本人が症状を通じて共依存になる傾向が散見されるなどの問題も指摘されています。

診断
 基本的には、痛みの原因となる器質的な疾患を否定することが必要となります。そのうえで
米国リウマチ学会の線維筋痛症の診断基準として提示されている典型的な圧痛点を確認していくことになります。

治療

 この病気はすぐに診断に至らないことが多く、原因がわからない中で痛みが持続することでの本人、家族の辛さが大きくなる側面があります。そうした点でも、全身性の多発する慢性疼痛の患者さんの中から、本疾患を正しく診断することが非常に重要であると言えます。また本疾患を診断した場合には、まず本疾患に関して以下の点をよく説明することが重要となります。
具体的には、若年性線維筋痛症は、痛みの感じ方が変化してしまって持続している状態である点、痛みに対しての即効性のある治療薬などはないが、痛みを緩和できる治療は存在する点、また痛みは実際にあるものであるが、後遺症を残したりするものではない点、などを本人がこれまで辛い痛みがずっと続いていたことによく配慮しながら、優しく丁寧に説明をしていきます。本疾患で有効であろうと言われている治療には、心理療法、特に認知行動療法(CBT)、また運動療法がありますが、これらを実施可能な施設とても少ないのが現状です。また慢性疼痛の診療の枠組みと同様に小児科医、児童・思春期精神科医、心理士などの多職種が連携して診療を行うことができれば理想的であると言えるでしょう。一方では、通常の外来で取りうることができうる、認知行動療法的なアプローチとしては、以下のような点があります。
・治療の方向性としては、痛みを完全に消すのではなく、痛みがあってもできることを増やすということになることを説明して同意を得る。
・痛みの記録(痛みの強さ・頻度・どのような状況で症状は改善、悪化するか)を医師、患者さん、家族とで一緒に振り返る。
・「痛みがあってもできること」と「痛みのためにできないこと」を整理し、達成可能な目標を設定して、痛みがある中でもできる活動を見つけ、本人のできるという気持ちを促進する。
・痛みがあったときに、どのように思ったので何もできなかったのか?もしくはどのように思って必要な行動を続けられたかなどに焦点をあてていきます。

国立成育医療研究センター総合診療科 永井 章)

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