(17)いじめ問題への対応

広島県立障害者療育支援センター わかば療育園 医療科
河野政樹

  1. 概要(定義)
    いじめを定義することは、「いじめられたと感じた」という被害者の側の主観的事実に基づくために大変難しいのです。文部科学省の児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査によりますと,いじめを「①自分より弱い者に対して一方的に,②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え,③相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお,起こった場所は学校の内外を問わない。」としています。なお,「個々の行為がいじめに当たるか否かの判断は,表面的・形式的に行うことなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行うことが大切である。」とされています。
  2. いじめの統計(文部科学省)
    平成16年度の公立の小・中・高等学校及び特殊教育諸学校におけるいじめの発生件数は,21,671件〔前年度23,351件〕(小学校5,551件〔6,051件〕,中学校13,915件〔15,159件〕,高等学校2,121件〔2,070件〕,特殊教育諸学校84件〔71件〕であり,8年ぶりに増加した前年度より減少に転じています。いじめの発生件数を学年別にみると,小学校から学年が進むにつれて多くなり,中学1年生が6,587件で最も多く,全発生件数の30.4パーセントを占めています。この数字は、学校が把握した件数であることを考えて合わせてみると、実数はかなりこの数字を上回ることが推定されます。
  3. いじめへの対応と鑑別すべき背景
    1. いじめの事実が発見されるルート
      (1)児童・生徒本人が保護者や担任教師に訴える場合、(2)同級生が目撃しその保護者や教師を経由して保護者が知る場合、(3)警察などに補導され、その取り調べの過程で明らかになる場合、(4)外傷の治療のための診療や、不登校、盗癖(恐喝の被害者でお金の調達のため)などの相談や面接の過程で明らかになる場合もありますので、不自然な外傷や衣服の汚れや破損、突然の不登校や家のお金を盗み出したり、反復する特定のものを多量に万引きする時などは、暴力や恐喝などのいじめが背景にある可能性もあり、注意が必要です。
    2. いじめの被害者(保護者)への対応の留意点
      (1)教員やカウンセラー、診療にあたる医師は、いじめのあるなしを確認するのではなく、どういう被害感や事実認識があるかを無条件にそのまま聴くことが大切です。(2)医師やカウンセラーの場合、守秘義務について話し、本人に断りなく、加害者や学校に伝えたり、対応しないことを約束すると話が進めやすいと思います。(大人に相談しても解決しないという大人への不信感があることが多いため)(3)精神疾患に基づく被害妄想や発達障害に基づく勘違いなどとの鑑別が必要なことがあります。(4)心理的な衝撃が大きい場合には、不眠、悪夢や小さなもの音でも過敏に反応するなどの急性ストレス障害やPTSDなどの症状の確認が必要になります。(5)身体的な外傷の有無も訴えがあれば同意を得てチェックすると良いでしょう。(6)保護者からの話でも同様であり、さらに保護者からは衣服、持ち物の汚れや消耗の状況も聞くと暴力や恐喝の兆候に気付くことができるでしょう。(7)学校連携:保護者と本人の同意を得た上で、なるべく学校からの情報も直接得ることも大切ですし、客観的な事実の把握につながります。
    3. 鑑別が必要ないじめの被害者の背景
      (1)発達障害(特に広汎性発達障害)(2)統合失調症に伴う被害妄想(3)片側性難聴に伴う被害感などが挙げられます。
    4. 想定が必要ないじめの加害者の背景
      (1)注意欠陥多動性障害(2)反抗挑戦性障害(3)行為障害(4)広汎性発達障害などが挙げられます。
  4. 専門医師の対応のコツ
    1. 入院、転校・クラス替え・別室登校・適応指導教室の利用などを含めた柔軟で迅速な対応 いじめの事実を大人が知った時点で、すでに心理的な限界が来ている可能性が高いので、経過観察ではなく、その症状の程度により柔軟で迅速な対応が必要になります。早期に転校することで解決する事例もあるので、まずは、可能であれば転校の可能性を探りましょう。
    2. カウンセリング・精神療法などの対応 恐喝・性被害などの犯罪被害事実については、本人は加害者からの報復や今後のことを考えて、話したがりません。本人が安心安全の場を確保してから初めて語られることが多いようです。
    3. 他機関との連携 非行・犯罪事実が明らかになれば、被害者の安全確保のためにも児童相談所・警察・家庭裁判所とも連携が必要になります。
    4. 診断書・意見書の活用 入院、転校にあたっては、専門医も適切に診断書を書いて対応する必要があります。文部科学省はいじめを原因とする転校を認めていますが、実際にいじめの問題により,転校できた児童生徒は,平成16年度では、小学校99人,中学校248人,特殊教育諸学校0人と大変少ないのが現状です。教員や家族から「転校してもいじめられるかもしれない。」という言葉によって、児童、生徒は、いじめが発覚した後も苦しい状況が続き、不登校状態となることが多いように思われます。もし、このような実態があるときは、この制度を積極的運用して、本人の身体的、精神的な安全を確保することが大切だと思います。

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  1. (1)起立性調節障害:田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:島田章
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)疼痛障害:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)神経性食欲不振症(若年期発症):井口敏之
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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