(15)摂食障害(神経性やせ症)

日本小児心身医学会 鈴木雄一

    1. はじめに
      摂食障害は、以前から神経性無食欲症や思春期やせ症とも呼ばれていた「神経性やせ症」、むちゃ食いと排出行動を繰り返す「神経性過食症」、その他の摂食障害(代表は回避制限性食物摂取症)の総称です。小児の場合、摂食障害のおよそ30%が非定型と言われており、すべてが「神経性やせ症」ではありません。近年では患者数の増加と初潮前に発症する低年齢化が目立っているため、発症の契機や症状が多様化しています。
    2. 疫学
      摂食障害は1980年から約10倍増加しています。好発年齢は神経性やせ症が10~19歳、神経性過食症は20~29歳です。明らかな性差を認め、90%以上が女性です。近年、若年発症例や男児例が増加している傾向にあります。
    3. 成因
      ダイエットをきっかけに発症することが多いですが、はっきりとしたやせ願望が目立たずに抱えている心理的ストレスが体に反映されて食欲が低下する場合や、胃腸炎に伴う嘔吐などの恐怖体験をきっかけに食べなくなる場合もあります。
    4. 診断基準
      一般的にはAmerican Psychiatric AssociationによるDSM-5に基づき診断されます。
      神経性やせ症は、頑固な体重減少に伴い、体重・体型に対する歪んだ認知(やせ願望や肥満恐怖)や食行動への病的な没頭(食物の回避や過度な運動など)を認める場合に診断されます。小児の場合は摂食障害のとらえ方に幅を持たせたほうが理解しやすいことがあり、体重あるいは体型への異常な認知がない場合は回避制限性食物摂取症に分類します。
    5. 摂食障害と似ている他の病気(鑑別診断)
      体重減少を来す様々な病気を鑑別する必要があります。特に、甲状腺機能異常や脳腫瘍を否定することは重要です。最近では、不適切な養育環境による栄養障害にも注意が必要です。また環境変化などのストレスによって一時的に抑うつ状態となり体重が減少することもあります。
    6. 体重減少による身体の変化
      体重減少による種々の症状(やせ、産毛増生、初潮遅延、月経停止、足のむくみ)がみられます。診察上は低体温、低血圧、徐脈といった低栄養を反映した所見を認めます。
    7. 体重減少による心理・行動の変化
      低栄養によりダイエットハイになるなどの認知の歪みが生じます。行動異常(盗み、過食・嘔吐、活動性亢進)や精神異常(対人関係拒否、うつ状態、気分変動、強迫・こだわり)を伴うことも少なくありませんが、小児例ではむしろ活動性が低下して疲れを訴えてくることもあります。
    8. 摂食障害の初期治療
      体重が減少し始めた子どもたちに周囲が早く気づき、栄養の改善と間違った食行動の見直しを行うことが大切です。栄養状態が回復するだけで心理・行動面の問題が軽減する場合もあります。
      年齢と身長から標準体重を計算し(図1)、現在の体重との比(標準体重比)を計算します。入院適応基準(身体限界)を治療の初期から理解しておくことが身体を守るために大切です。標準体重比65~70%が維持できれば一般的には外来治療が可能ですが、患者さんの状況や主治医の判断により異なります。急激な体重減少(1~2週間で-1㎏以上)がある場合や過活動の程度が強い場合は運動制限が必要です。標準体重比65%未満となり身体限界に達した時は入院の適応です。子どもの病状や各地域の病院事情により小児科病棟もしくは精神科病棟を選択することになります。入院治療の目標は、①肝機能障害などの正常化、高度の脱水や意識障害などの身体危機状態からの脱出、②体重を維持できる最低限のカロリー(1400~1600kcal/日)の摂取、などです。
    9. 摂食障害の治療合併症(再栄養症候群)の対応と予防
      注意が必要な治療合併症に再栄養症候群があります。経口、経管、経静脈のいずれの栄養法においても起こりえますが、標準体重比60%以下になると発症する危険が高まります。予防法は、少ないカロリーから開始(20~30kcal/kg/日)すること、ビタミンB1やカリウム・リンなどの電解質を定期的にチェックし補正することです。経口なら高リン含有補助食品の摂取、点滴ならビタミンB1製剤やリン酸二カリウム製剤による補正を行います。
    10. 治療期間
      体重回復がゴールではありません。急性期の身体危機を乗り切った後は体重維持を目標に外来通院します。子どもへの継続的な身体診察(身長の伸び、骨粗しょう症の有無、月経の回復など)や心理療法(支持的精神療法など)、家族への介入、学校との連携などが主な治療内容です。「自然な空腹にしたがって食事をとること」「代償行為としての強迫的な行動(過活動、嘔吐・下剤濫用)が不要になること」「甘えとわがままを素直にだせるようになること」「葛藤を抱えることができ、主体性を持った自分を獲得すること」を達成できれば治療を終結しますが、それまでには少なくとも数年を要します。

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(図1)

(A)標準体重=a×身長-b (kg)

a.bは,年齢別に下記表の数値を用いる

女子 男子
5歳 0.377 22.750 5歳 0.386 23.699
6 0.458 32.079 6 0.461 32.382
7 0.508 38.367 7 0.513 38.878
8 0.561 45.006 8 0.592 48.804
9 0.652 56.992 9 0.687 61.390
10 0.730 68.091 10 0.752 70.461
11 0.803 78.846 11 0.782 75.106
12 0.796 76.934 12 0.783 75.642
13 0.655 54.234 13 0.815 81.348
14 0.594 43.264 14 0.832 83.695
15 0.560 37.002 15 0.766 70.989
16 0.578 39.057 16 0.656 51.822
17 0.598 42.339 17 0.672 53.642

例えば,12歳女子で身長が152㎝の場合,標準体重は,0.806×152-78.855=44.058㎏

生魚薫,橋本令子,村田光範:学校保健における新しい体格判定基準の検討―新基準と旧基準の比較、および新基準による肥満傾向児並びに痩身傾向児の出現頻度にみられる1980年度から2006年度にかけての年次推移について―.小児保健研究69:6-13,2010より引用一部改変

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  1. (1)起立性調節障害(OD):田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:土生川千珠
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換性障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)くり返す子どもの痛み:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)摂食障害:鈴木雄一
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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