(15)摂食障害

鈴木雄一
福島県立医科大学医学部小児科学講座

摂食障害
(神経性やせ症、神経性過食症、回避・制限性食物摂取症)

1.はじめに

摂食障害は、やせ願望、肥満恐怖、過活動を呈する「神経性やせ症」と「神経性過食症」、その他の摂食障害(回避・制限性食物摂取症など)の総称です。小児の場合、摂食障害のおよそ30%が非定型と言われており、すべてが「神経性やせ症」ではありません。近年では発症の契機や症状が多様化しており、前思春期例や、やせ願望のない非定型例、発達障害併存例への対応が求められています。

2.疫学

好発年齢は神経性やせ症が10~19歳、神経性過食症は20~29歳です。2002年の神経性やせ症の頻度は0.43%、神経性過食症は2.32%、特定不能の摂食障害が9.99%でした。15歳未満の小児の有病率に関する明確なデータは存在しません。日本小児心身医学会摂食障害ワーキンググループによる多施設共同研究の報告では、15歳未満の摂食障害131例のうち、回避・制限性食物摂取症が約3分の1を占めていました。また、全体の18%に発達障害(多くは自閉スペクトラム症)の併存を認めました。一方で、発症年齢は神経性やせ症が13.4歳なのに対し、回避・制限性食物摂取症が11.8歳で、後者が有意に低年齢発症でした。

3.成因

ダイエットをきっかけに発症することが多いですが、食事量が少ないことや食事内容に偏りがあることが長年の食習慣になっている場合、情緒面の不安定さが食行動に影響し不安で食べられない場合、嘔吐や窒息のエピソード後から恐怖で飲み込めない場合、など様々です。

4.診断基準

一般的にはAmerican Psychiatric AssociationによるDSM-5に基づき診断されます。

神経性やせ症は、頑固な体重減少に伴い、体重・体型に対する歪んだ認知(やせ願望や肥満恐怖)や食行動への病的な没頭(食物の回避や過度な運動など)を認める場合に診断されます。小児の場合は摂食障害のとらえ方に幅を持たせたほうが理解しやすいことがあり、体重あるいは体型への異常な認知がない場合は回避制限性食物摂取症に分類します。

5.鑑別診断

体重減少を来す様々な病気を鑑別する必要があります。特に、甲状腺機能異常や脳腫瘍を否定することは重要です。最近では、不適切な養育環境による栄養障害にも注意が必要です。また環境変化などのストレスによって一時的に抑うつ状態となり体重が減少することもあります。

6.体重減少による体の変化

体重減少による種々の症状(やせ、産毛増生、初潮遅延、月経停止、足のむくみ)がみられます。診察上は低体温、低血圧、徐脈という低栄養を反映した所見を認めます。

7.体重減少による心理・行動面の変化

低栄養によりダイエットハイになるため認知が歪みます。行動異常(盗み、過食、・嘔吐、活動性亢進)や精神異常(対人関係拒否、うつ状態、気分変動、強迫・こだわり)が強く見られますが、小児では活動性が低下して疲れを訴えてくることもあります。

8.摂食障害の初期治療

体重が減少し始めた子どもたちに周囲が早く気づき、栄養の改善と間違った食行動の見直しを行うことが大切です。栄養状態が回復するだけで心理・行動面の問題が軽減する場合もあります。

年齢と身長から標準体重を計算し(図1)、現在の体重との比(標準体重比)を計算します。入院適応基準(身体限界)を治療の初期から理解しておくことが身体を守るために大切です。標準体重比65~70%が維持できれば一般的には外来治療が可能ですが、患者さんの状況や主治医の判断により異なります。急激な体重減少(1週間で-1㎏以上)がある場合や過活動の程度が強い場合は運動制限が必要です。標準体重比65%未満となり身体限界に達した時は、入院の適応になります。子どもの病状や各地域の病院事情により小児科病棟もしくは精神科病棟を選択することになります。入院の目的は、①肝機能障害などの血液検査所見の正常化、高度の脱水や意識障害などの身体危機状態からの脱出、②体重を維持できる最低限のカロリー(1400~1600kcal/日)の摂取、などです。

9.摂食障害の治療合併症(再栄養症候群の対応と予防) 

再栄養中に最も注意が必要なものが再栄養症候群です。経口、経管、経静脈のいずれの栄養法においても起こり得ます。BMI13%以下、標準体重比60%以下が発症リスクといわれています。リンの絶対量不足と関連しているという報告が多いですが、必ずしも血清リン値と相関しないことに注意が必要です。再栄養後しばらくは週に1~2回の血液検査が望ましいと考えます。予防法は、少ないカロリーから開始(20~30kcal/kg/日)すること、ビタミンB1の補充とカリウム・リンの適宜補正(特にP>2mg/dlを保つ)することです。

10.心理治療

英国のNICEガイドラインでは、「成人の神経性過食症に対して、過食症向けの認知行動療法を4~5か月にわたり16∼20回提供すべきである」(推奨グレードA)、神経性やせ症患者では「児童思春期の、直接治療の焦点を当てた家族介入が行われるべきである」(推奨グレードB)と示されています。特に、家族療法(family based treatment: FBT)は児童・思春期の神経性やせ症にエビデンスがあり、日本においても展開されていくことが期待されています。

11. 他職種とのかかわり

入院治療中は定期的にスタッフミーティングを行い、看護師、栄養士と共に情報の共有をする。教師(院内学級や地元学校の担任・養護教諭)と連携し、子どもの性格傾向や心理状態を共有します。学校生活では、現在の治療段階や食事摂取量に見合う対応と、子どもが達成感を得られ自尊心を高めることができる関わりを依頼します。

(図1)

(A)標準体重=a×身長-b (kg)

a.bは、年齢別に下記表の数値を用いる

女子 男子
5歳 0.377 22.750 5歳 0.386 23.699
6歳 0.458 32.079 6歳 0.461 32.382
7歳 0.508 38.367 7歳 0.513 38.878
8歳 0.561 45.006 8歳 0.592 48.804
9歳 0.652 56.992 9歳 0.687 61.390
10歳 0.730 68.091 10歳 0.752 70.461
11歳 0.803 78.846 11歳 0.782 75.106
12歳 0.796 76.934 12歳 0.783 75.642
13歳 0.655 54.234 13歳 0.815 81.348
14歳 0.594 43.264 14歳 0.832 83.695
15歳 0.560 37.002 15歳 0.766 70.989
16歳 0.578 39.057 16歳 0.656 51.822
17歳 0.598 42.339 17歳 0.672 53.642

例えば、12歳女子で身長が152㎝の場合、標準体重は、0.806×152-78.855=44.058㎏

生魚薫、橋本令子、村田光範:学校保健における新しい体格判定基準の検討―新基準と旧基準の比較、および新基準による肥満傾向児並びに痩身傾向児の出現頻度にみられる1980年度から2006年度にかけての年次推移について―.小児保健研究69:6-13、2010より引用一部改変

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