(12)くり返す子どもの痛み

日本小児心身医学会 汐田まどか

  1. 子どもの痛みについて
    痛みは、国際疼痛学会の定義によれば、「組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」とされています。つまり、身体の傷害だけでなく、それを不快に感じる情動(気持ち)があり、それらが一体になっている状態です。
    さらに、子どもは、身体と心が未分化であることから、不安、緊張などの精神的なストレスも含めた、大人よりも広い色々な心身の状態を痛みとして訴えます。また、痛みの訴えが単独で出るだけでなく、不登校に反復する頭痛、腹痛を伴うなど、他の精神的な病態を背景として症状が出る場合も多くみられます。
    いずれにしても子ども本人には痛みとして自覚されているので、苦痛であることについて、まわりの大人がまず共感することが大切です。
  2. 診断
    腹痛、頭痛、関節痛など手足の痛み、胸痛などがよく見られます。基本的に、身体的な治療が必要な基礎疾患がないかどうかについて精査します(「起立性調節障害」「過敏性腸症候群」「慢性頭痛」「消化性潰瘍」の項をご参照ください)。
    身体精査と同時に、痛みへの対症療法(冷やす、温める、声かけ、なでる、気ばらしなど)を行います。
    診断の考えかたとしては、身体の病気か心の問題かどちらかを決めるものではなく、身体面、心理面の要因がそれぞれどの程度あるかを調べて、両面に対応します。検査によって本人の痛みへのこだわりを強めたり、検査そのものによる苦痛がさらに痛みを強めたりすることがないように、初期はできるだけ必要最小限の検査をします。
    検査で身体疾患が特定できなくても、本人や家族に説明する場合は、単に精神的なもの、とは言わず、心配な病気ではなさそうだが、どうしたら痛みが軽くなるかを一緒に考えていこう、という話しかたをするほうが良いでしょう。
    精神的葛藤(ストレス)が、身体検査では説明のつかない身体症状として出てくる場合、精神疾患の分類では「身体症状症」と診断されます。この場合、身体面の異常はなく、疾病利得(症状に置き換えられることでストレスが自覚されない、症状が出ることで注目されるなど)がみられ、従来は「ヒステリー」と呼ばれていました。この身体症状症で、くり返す痛みが主な症状として出る場合があります。しかし、子どもの場合、痛みに関して自律神経や胃腸の動き具合など、何らかの身体的機能のアンバランスや未熟が関係していることが多いと考えられます。
    一方、うつ、不安障害、統合失調症などの精神的な疾患が背景にあってしつこい疼痛を訴えることがあるので、この場合は精神科に相談する必要があります。
  3. 対応・治療
    くり返す痛みの場合、治療の目標は、痛みをなくすことにこだわらず、本人が痛みとうまくつきあえるようになり、生活を広げて社会に適応しやすくすること、と言えます。
    多くの場合、痛みが条件づけ(注目されたり学校を休めたりすることで強化)され学習されています。症状が出やすい状況をできるだけ作らないようにします。痛みを訴えるときにだけ注目されると症状を強めるので、痛みがあっても活動できたときに褒めてその行動を強め、本人の自信につながるようにします。また、本人が感情を言葉で表現できなかったり、周囲にあわせようとしてがんばりすぎていたりすることもあるので、遊びの中や言葉で感情の表出をはかります。
    痛みどめなどの薬物も、必要に応じて使用します。
    これらの対応をしても痛みが続く場合や、痛みの場所が特定の部位になってくるなどの場合は、身体の問題がないかどうか再度調べる必要があります。

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  1. (1)起立性調節障害(OD):田中英高
  2. (2)過敏性腸症候群:土生川千珠
  3. (3)気管支喘息:赤坂徹
  4. (4)過換気症候群:小柳憲司
  5. (5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など):安島英裕
  6. (6)消化性潰瘍:竹中義人
  7. (7)心因性嘔吐:岡田あゆみ
  8. (8)非器質性視力障害:石崎優子
  9. (9)転換性障害:稲垣由子
  10. (10)心気症:氏家武
  11. (11)身体醜形障害:村山隆志
  12. (12)くり返す子どもの痛み:汐田まどか
  13. (13)身体化障害:二宮恒夫
  14. (14)その他の身体疾患による精神症状:藤本保
  15. (15)摂食障害:鈴木雄一
  16. (16)不登校の早期対応:村上佳津美
  17. (17)いじめ問題への対応:河野政樹

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