(5)慢性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛など)

安島 英裕
神戸市立医療センター西市民病院

1.概要

頭痛の分類は、国際頭痛分類第3版β版が一般的です。精密検査をしても異常がみつからないから大丈夫?そうではありません。異常がみつからないのに辛い頭痛は繰り返し起こります。そして、それが頭痛診療の出発点となります。異常がみつからないのに、辛い症状を繰り返すという意味では、心身症と共通する特徴を持っております。医療機関を受診する辛い頭痛の代表は片頭痛です。最近の医療の進歩により、成人では片頭痛に有効な治療法が分かってきており、片頭痛と対をなす緊張型頭痛をはじめ、他の頭痛を区別する必要があります。

2.疫学

片頭痛は、日本の15歳以上では8.4%であり、12歳までは女性と男性はほぼ同じですが、12歳以降は性周期との関連から女性の割合が増加し、男性の3~4倍に達します。緊張型頭痛は、日本の15歳以上の22.3%であり、10歳以下の小児には少ないとされていますが、どの年齢層でも女性は男性の1.5~2倍になり、ほぼ一定している様です。

3.成因

片頭痛は、頭を流れる血管の収縮と拡張、および血管に分布して痛みを伝える三叉神経に作用するセロトニンという物質の働きで説明されています。その事はセロトニンと同じ働きをするトリプタン製剤が著効する事からも証明されています。しかし、それは片頭痛を理解するための一部分であり、それ以外の成因についても研究が盛んに行われています。緊張型頭痛については不明な点が多いです。小児の頭痛については、成人ほどには分かっておらず、研究も余り進んでいないのが現状です。いずれの頭痛も精神的、身体的ストレスが大きく関与している様です。

4.診断

小児期の「片頭痛」は成人より短く、2~72時間(国際頭痛分類第2版の1~72時間から変更されているので注意)、始まりと終わりが比較的はっきりしています。前頭部~側頭部の両側性である事が多く、片側性はむしろ少ないようです。後頭部痛である場合は精密検査が必要です。心臓の拍動に合わせてズキンズキン痛み、体を動かすと頭痛が強くなるため、寝込む方も多いです。吐き気や嘔吐を伴い、光過敏、音過敏、臭い過敏といった症状もみられます。この様な不快な症状があり、とても辛い痛みですので、日常生活を普通に過ごすのが難しくなります。頭痛の「前兆」として、目の前にキラキラした光が見えたり、これから頭痛が始まりそうという「予兆」を感じる方もおられます。「緊張型頭痛」は、30分~7日間持続し、いつ始まりいつ終わったかはっきりしない事が多く、両側性で、片頭痛とは正反対の特徴を持つ頭痛です。孫悟空の頭にはめられた輪に例えられる様に、頭を締めつけられる様な痛みであったり、頭が重いと感じます。体を動かしても頭痛が強くなる事はなく、逆に軽くなる事も多いため、遊んでいるうちに忘れてしまう事もあります。悪心や嘔吐を認めず、光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみです。頭痛があっても、日常生活を普通にこなせる事が多いため、受診される方は少ないようです。「慢性連日性頭痛」は、3ヶ月以上にわたり、月に15日以上ある頭痛の通称であり、片頭痛と緊張型頭痛の両方の頭痛が混在している事が多い様です。この様な頻度の高い頭痛は、心理社会的要因が強いと考えられます。「薬物乱用頭痛」は、頭痛もちの方が鎮痛薬を月に10日以上、あるいは週2~3日以上を毎週の様に服用していると起こる辛い頭痛です。薬局で市販されている鎮痛薬でも比較的起こし易く、病院で処方される鎮痛薬、エルゴタミン製剤などでも起こるため、この基準を超えない様に注意をして服用する事が大切です。

5.鑑別診断

頭痛に関わる診療科は、脳神経外科、耳鼻科、眼科、歯科口腔外科、整形外科、精神神経科など、多岐にわたります。命に関わり、後遺症を遺す病気が無いかどうかは、一度は検査しておく必要があります。低血圧気味の方がほとんどですが、逆に高血圧気味な場合は詳しく原因を調べる必要があります。甲状腺の病気が見つかる事も時々あります。頭痛を診断したり、治療の効果があるかどうかを判断するには、頭痛ダイアリーがとても役立ちます。

6.よくみられる合併症・併存症

アレルギー疾患、副鼻腔炎、起立性調節障害、肩こりは多くみられます。急に起こる頭痛への不安や恐怖、抑うつ傾向がありますと、元々ある頭痛を悪化させる原因となります。

7.経過

成人期には落ち着いてしまう頭痛もありますが、片頭痛は、思春期~30代頃の働き盛りに多く、その後は次第に落ち着いて来るのが一般的な経過です。しかし、「薬物乱用頭痛」がありますと、中高年になってさらに頭痛が悪化して参ります。頭痛もちのお子さんの半数は親も頭痛もちであり、「やっぱり親子ですねえ」と、比較的理解が得やすいです。親の方は、長い間辛い頭痛に悩まされていても、具体的な診断や治療を受けておられない方も多く、市販鎮痛薬を箱単位で購入されて毎日の様に服用されている様な場合もよくあります。親子一緒に頭痛に取り組んで、親子そろって辛い症状から解き放たれる事が大切です。

8.治療・介入

繰り返し起こる頭痛が、完全に無くなる事はありません。日常生活の妨げとなる頭痛の強さと回数を減らし、頭痛が起こってもできる限り早く頭痛を落ち着かせて、普段の生活に戻れるようにするのが治療の目標となります。最初にこの点をハッキリさせておく事が大切です。日常生活のリズムをできる限り崩さない様に心がけ、頭痛を起こす刺激を見つけてそれを避け、頭痛体操や緩和訓練を行って、日常生活の中で頭痛を予防しましょう。頭痛が始まった場合には、片頭痛の症状であればまず安静にし、痛い所を押さえたり、冷やすのも効果的です。鎮痛薬が処方されているならば、頭痛が最強にならない様にできる限り早く服用します。鎮痛薬はイブプロフェンが有効で、アセトアミノフェンもお勧めです。これら鎮痛薬に、制吐薬を併用する事で、鎮痛薬の効果はより高くなります。片頭痛の特効薬であるトリプタン製剤は、片頭痛が始まったらすぐに使用しないと効果がありません。頭痛の程度が強く、回数が多い場合は、予防療法が必要となります。起立性調節障害(低血圧)のある方はそちらの治療が効果的です。予防薬の使用により、頭痛の程度や頭痛の回数が半分以下になりましたら、予防療法は有効と考えられます。効果判定にも頭痛ダイアリーは役に立ちますので、こまめに記載してください。「慢性連日性頭痛」は心理社会的な影響が高く、より細やかな心身医学的対応が必要となります。今まで元気で遊んでいた子どもが、急に吐き気を伴う辛い頭痛が起こり、数時間苦しんだ後に何事も無かったかの様に元の元気を取り戻す事は良くみられます。激しい運動をすると頭痛が起こるために、体育の授業を休みがちとなる子もいます。教師や親の立場からは、「怠け病」と考えても仕方が無いのかも知れません。ただ、頭痛もちのお子さんは、頑張り屋で、我慢強い方が多いです。周囲の励ましの声に応えようとして、極限まで痛みを我慢されます。その様な経験が積み重なりますと、次第に痛みに敏感になり、心身ともに疲れ果てて参ります。頭痛以外にも様々な症状が現れ始め、不登校の一因になる事もあります。周りにいる人は、本人の辛いという訴えを、私情を交えずに聞き、症状のある時には十分な休養を取らせて、出来る限り早く鎮痛薬を内服させるなどの配慮が大切です。

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